【退去時の敷金トラブル】原状回復義務ってなに?修繕・清掃費用はすべて入居者が負担するものなの?

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敷金がもどってくるか心配する人賃貸トラブルの中で、一番多いのが敷金に関する問題です。

行政や国民生活センターなど、各機関も敷金に関するトラブルを重視して、トラブル防止のための情報を提供しています。

しかし、トラブルは減少しません。

原因としては、貸主・借主のどちらも、それぞれが負担すべき物や範囲についての基本的な知識が曖昧であったり、不足していることです。

また、曖昧な知識のまま契約内容を決め、契約を結び、更には入居時に双方がしっかりと部屋の状況をチェックしていないこともトラブルになる原因です。

このような事から、

A さん
敷金が返ってこない
B さん
退去してから莫大な壁紙の張替料や部屋の清掃料を請求された
c さん
入居の時点から歩くと凹む箇所があったのに、その部分の修理費用まで請求された
D さん
退去してから1か月も経つのに、敷金についての連絡が一切ない
E さん
修繕について一切詳しい説明もなく、原状回復費用として30万もの請求がきた

退去時に敷金をめぐるトラブルは多くなっています。

そこで、敷金のことや退去の際に借主が負担しなくてはいけない範囲について説明していきます。

敷金とはどんなお金なの?敷金の性質

重要

敷金のトラブルについて対処法を説明する前に、敷金とは「どんなお金なのか」を正しく知っておくべきです。

敷金とは、入居時から退去するまでの期間、入居者が大家さん(不動産の持ち主)に預けておくお金となります。

大家さんが敷金を預かる理由としては、想定されるリスクを回避するためです。

例えば、家賃を支払ってもらえない場合、家賃収入がなくなります。

何か壊されたり汚されたりした場合なら、修繕のための費用を負担することになってしまいます。

こういった問題が起きた場合にあてる費用として、大家さんは敷金を預かるわけです。

つまり、実際に家賃滞納や修繕・清掃にかかる費用が発生した場合には、かかった費用を敷金から差し引くことができます。

そして退去の際、残った敷金があれば、入居していた人に返金されることになるのです。

太郎隊員
ここで注意!!

預ける相手は大家さんであって、「仲介している不動産屋ではない」という点(不動産屋が大家という場合は除きます)。

また、地方によっては敷金ではなく「保証金」と言われる場合もあります。

この場合、言い方は違いますが、敷金=保証金として同様の性質を持ちます。

また、入居の際に支払う費用としては、他にも「礼金」や「仲介手数料」などを支払うこともありますが、これは別物です。

これは、物件を貸してくれた(仲介してくれた)、「お礼」として、大家さんや不動産業者に対して支払うお金です。

最近では、「礼金・仲介手数料ゼロ円」という物件も多くなっていますが、既に支払っている場合には、このお金は戻ってきません。

修繕や清掃にかかる費用はすべて借主が負担?敷金から差し引かれる費用について

敷金について、多くのトラブルが発生している原因は、敷金については法律で何も書かれていないからです。

そのため、敷金の返還については、民法の616条(使用貸借の規定の準用)と598条を使ってきました。

まずは第616条を見て見ましょう。

民法第616条(引用)
「第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は、賃貸借について準用する。」

このうち、敷金に関わるのが第598条(借主による収去)です。

民法598条(引用)
「借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。」

分かりやすく言えば、引っ越す際には、もと・最初の状態(原状)にする、となっています。

つまり、原状に戻すための費用は敷金から差し引ける、ということです。

ですが、条文には問題があります。

もとの状態(原状)とは、

どこまでを言うのか?
新築の状態なのか?
入居時の状態なのか?
それとも上記以外なのか?

この点が明確ではなかったため、貸主と借りている方との間でトラブルになることが多くありました。

そこで、平成10年3月に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表。

ガイドラインのポイントは、原状回復とは?です。

原状回復とは?

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(引用)

「原状回復とは原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用は賃借人負担。」

そして、「いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるもの。 」

つまり、このガイドラインでは、「原状回復は、借りた人が入居した時の状態に戻すという意味ではない」ことを明確にしています

ただ、次に「通常の使用」とはどの程度ものか?という疑問・問題が生じますね。

これについては、次のとおり5つの状態に分けて説明しています。

A:経年変化・通常損耗

賃借人が通常の生活を送るために家を借りて住み、使用をしている中で発生する汚れだと考えられるもの

B:善感注意義務違反・故意、過失・その他

賃借人の生活次第、利用の仕方次第で汚れたり、汚れなかったりすると考えられるもの(通常の使用なら汚れなかったとされるもの)

G:入居時よりもグレードアップ

A+B

基本的にはAの範囲においての汚れであるが、賃借人の手入れがされず管理が悪かったために損耗等が発生、または拡大したとされる汚れ

A+G

基本的にはAの範囲においての汚れがあるが、改築等がなされ建物の価値を上げているもの

そして、このうち賃借人に原状回復義務があるとされるのは、Bの場合とA+Bの場合となっています。

これが国土交通省が公表しているガイドラインです。

なお、民法改正に伴い、退去時の敷金返還や原状回復のルールが明確化されました。

改正民法第621条(賃借人の原状回復義務)(引用)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

改正民法622条の2(引用)
1 賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
 ①賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。
 ②賃借人のが適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

これにより、今後は敷金返還のトラブルは減っていくと思います。

しかし、現時点ではガイドラインしかありません。

ガイドラインを理解していない貸主も多くいます。

また、借主の方も、ガイドラインを知らないことによって、損をしている方、トラブルになっている方は多くなっています。

そこで、実際に裁判で争われた際、裁判所が「原状回復」についてどのように判断しているのかを紹介します。

敷金トラブル事例〜裁判所の判断はどうなっているのか?

いくつかの判例を紹介しますので裁判所の考え方を見ておきましょう。

1.東京地裁平成6年7月1日

「原状回復」という文言は、社会通念上、時間の経過及び建物を通常の範囲において使用すれば生じてしまう建物の自然損耗についてまでもとに戻す事を言っているのではなく、賃借人の故意、過失による建物の毀損や、通常の範囲を超える使用によって劣化等したものだけにもとに戻すを義務だと解するのが相当。

2.京都簡裁平成11年7月29日

上記約定によれば、賃貸借契約が終了したときは、賃借人は、賃借人の使用が悪く通常の使用とは思えない建物の消耗、汚損、破壊等の修繕費費用を負担する義務をかしていると言えるが、その責任の範囲は、通常の使用の範囲を超えるてついた損傷等と解するのが相当。

3.仙台簡裁平成8年11月28日

居住用建物の賃貸借においては、賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損はその賃料によってカバーされるべきものと解すべきである。したがって、その修繕を賃借人の負担とすることは、賃借人に対し、賃料支払義務、敷金差入義務、目的物善管注意義務等の法律上、社会通念上当然に発生するものとは別のものであり、新たな義務を負担させる。それを負担させるためには、特に、賃借人がこの別の義務がどのようなものかを認識し又は認識して義務負担の意思表示をすることが必要。

これらの判例から裁判所の判断をまとめると、次のとおりです。

賃借人は、通常の使用による損耗分においてはもとの状態にしなくてよい。

逆に、賃借人は、故意・過失等によって建物を劣化させた場合、修繕をする必要がある。

よって、賃貸人は、賃借人が退去する際、壁やふすま等が汚れていたとしても、それが通常の使用の範囲ならば、その修繕費用を請求及び敷金から差し引いてはいけないのです。

これは、賃貸借契約書に『契約終了と同時に本件建物を原状に回復して、明け渡さなければならない』などと記載があった場合でも適用されます。

なお、きちんと管理をしていなかった、通常の使用を超えて使用していたなどの場合は修繕をする必要があり、修繕にかかった費用は賃借人が負担することになります。

修繕費用を負担することになる傷や汚れって具体的にどんなもの?

具体的に原状回復義務を負うケースと負わなくていいケースを紹介しておきます。

原状回復義務を負うケース
  • お風呂やトイレ等の水垢、カビ等
  • 結露が発生する場所のカビの拡大
  • 鍵を紛失した、破損した場合の取替え費用
  • 入居時にカーペットが設置されている場合、飲みこぼしなどで出来たカーペットのシミ
  • 引越作業でついた壁や床、柱などのキズ
  • 日常的に掃除していればつかなかった台所のスス・油汚れ
  • 喫煙によるクロスのきばみ
  • 釘穴・ビスによる壁の穴
  • ペットによる柱やふすま等のキズ
原状回復義務を負わなくよいケース
  • 家具の設置による床やカーペットにできた跡
  • 冷蔵庫やテレビの後ろにできる電気焼け
  • ポスターを壁に貼ってできた壁紙の変色
  • 自然現象によっておこるクロスや畳の変色、フローリングの色落ち
  • 下地の張替えが必要のない程度のガビョウの穴
  • 寿命による設備機器の故障
  • 賃貸物件の構造的な欠陥によりできる汚れやシミ
  • 次の入居者の為のもの(畳の裏返し、網戸の交換、破損・紛失以外の鍵の取替え等、ハウスクリーニング、エアコンの清掃)

敷金については基本的なルールがあってもトラブルになる!

10合成経年劣化、通常使用による消耗、この正しい知識が全ての貸主、借主にあれば、恐らく敷金トラブルは今よりは減っているはずです。

しかし、ガイドラインを把握していたり判例を知っていてもトラブルとなるケースはあります。

実際に、どの程度が経年変化や自然消耗となるのかを、具体的に当てはめられないからです。

更に、賃貸借契約書には、特約によって敷金について定められていることがあります。

この敷金特約を巡っても、よくトラブルになっています。

敷金特約として多い例としては、以下のとおりです。

「借主は原状回復(通常損耗にかかる費用も含む)して、建物を明け渡す」
「借主はリフォーム費用を全て負担する」

このような内容が契約書に書かれている場合です。

相談者
特約にそういう記載があった場合、そこまでの費用を借主が負担しなくてはいけないのでしょうか?

回答
契約上、例に出したような特約を入れること自体は問題ありません。

しかし、借主がその特約の意味を理解していない場合には、有効とは言えません。

そもそも、特約ではなく、契約の中で「リフォーム費用を負担すること」になっていた場合、「合理性」がなければ無効となる可能性が高いと言えます。

なぜなら、経年変化や自然損耗にかかる費用は、家賃に含まれているからです。

それなのにリフォーム費用をすべて借主に負担させることは、2重取りとなります。

2重取りが認められるためには、何かよほどの事やそれなりの理由がなければなりません。

例えば、

  • ペット不可の物件なのにペットを飼っていた
  • 禁煙という条件で貸していたのに喫煙していた
  • 作業部屋として使われ傷をつけられたなど・・・

このような事情があれば別ですが、理由がないのにリフォーム費用を全て借主に負担させる、ということは通用しないのです。

不動産屋や大家さんの中には、どんな契約内容であろうと、「何も知らない入居者には、とにかく印鑑さえ押させれば有利になる」として、ハンコを押すように求めてきます。

丁寧に、内容や特約についての説明なんてしてくれません。

注意

また、最近の契約書は、原状回復について、たくさんのハンコを押させるような仕組みにもなっています。

不動産屋や大家さんはプロですから、ハンコを押させるのは簡単です。

でも、「ハンコさえ押してあれば何でも通る」というわけではありません。

このような、不動産屋や大家さんの暴利を防ぐためにも、正しい知識を持つことは大切です。

揉めてしまった場合の対処方法

敷金返還について、分からないことや疑問を感じたら、まずは貸主に聞いてみましょう。

また、国土交通省が出している、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を確認してください。

そのうえで、貸主の対応がおかしいと感じたら、自分の主張をまとめて交渉しましょう。

太郎隊員
当事者同士で話した内容は、必ずメモや書面にして残しておくべきです。

説明を求めても応じてくれない、正しい請求をしても応じてくれないなどの場合には、書面にして内容証明郵便で送ってください。

それでも解決ができない場合には、簡易裁判所でおこなう少額訴訟という手続きがあります。

少額訴訟で敷金を返還しよう!

この訴訟は、個人でも手続きが簡単にできます。

裁判も1回の期日(1日)で終わり、判決が出るのが原則ですから、費用も時間もかけずに解決することが可能になります。

ただし、少額訴訟をする前に、一度、専門家の意見を聞いてみたほうが無難です。

自分の言い分が法的に正しいものか?

これまでの判例などからみて返還されるケースなのか?

法的手段を使う前に、確認しておくといいでしょう。

参考ページ :賃貸トラブルで困ったら!弁護士の無料相談を活用

自分で判断や交渉ができない場合

敷金返還や原状回復費用については、素人では判断が難しいこともあります。

ガイドラインを参考にしても自分では判断できない場合、弁護士の無料相談を活用するといいでしょう。

弁護士には、交渉だけを依頼することもできます。

専門家が間に入ることで、すんなり解決するケースも多くあります。

下手に自分で交渉までを行うと、余計にこじれてしまう場合も少なくありません。

そうなると、法的手段をとるしか解決できなくなる可能性もあります。

あまり費用と時間をかけずに解決することを考えて行動しましょう。

まとめ〜自然損耗や経年劣化による修繕・清掃費用は借主が負担するものではない

Point1

こうしてみると、「不注意や故意により、傷つけた・壊した・汚した場合」以外の費用については、「入居者が負担する必要はない」ということになります。

負担しないということは、敷金や保証金は基本的には全額返ってきて当たり前のものであるということがわかりますね。

大家さんの対応や請求に疑問を感じたら、泣き寝入りする前に、できることはやってみるべきです。

自分では判断できない、交渉できない場合には、専門家のアドバイスをうけてみましょう。

ここで説明した正しい知識により対処できれば、きちんと敷金を返してもらうことができます。

参考ページ:地域の相談窓口はこちら

One Response to “【退去時の敷金トラブル】原状回復義務ってなに?修繕・清掃費用はすべて入居者が負担するものなの?”

  1. 三本富子 より:

    ありがとうございます。勉強になりました。わたしは貸主側ですが、借主さんが5年間放置した事でダイニングが、シンク、床が腐ってはがれ、まるで廃墟状態です。管理会社には1度連絡したと言いますが、管理会社はデーターなどないといってます。この様な場合、大家は借主さんだけに請求するのか、管理会社には、なんの落ち度もないのか。五年前に、修理していれば、こんな大規模な事にはならなかったと思うと、非常にくやしいです。

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